大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和45年(ネ)242号 判決 1973年10月12日

控訴人

ワンダフル産業有限会社

右代表者

荒井光太郎

右訴訟代理人

入倉卓志

竹下甫

被控訴人

吉川理三郎

長沢八十吉

右両名訴訟代理人

小坂重吉

主文

原判決中控訴人敗訴の部分は、取り消す。

被控訴人らの請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの連帯負担とする。

事実《省略》

理由

(争いのない事実)

一被控訴人らが本件実用新案権の共有権者であること、ならびに本件実用新案の構成および作用効果がいずれも被控訴人らの主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(差止請求権の有無について)

二控訴人が本件物件を、現に、製造、販売していることは、本件全証拠によるもこれを認めるに足りないが、本訴において控訴人の勝訴の場合には、控訴人において原判決別紙イ号図面およびロ号図面ならびに説明書記載の構成からなる本件物件のうちイ号図面のものを製造、販売する予定であることは、自認するところであるから、控訴人は、本件物件のうちイ号図面のものを製造、販売するおそれがあるものということができる。

よつて、本件物件が本件実用新案の技術的範囲に属するか否かにつき判断するに、本件物件は、以下に説示するとおり、本件実用新案の技術的範囲に属するものとすることはできない。すなわち、

前記当事者間に争いのない本件実用新案の構成と本件物件の構成とを対比するに、本件実用新案において、縦長状板ばね8の下端部が中空脚杵の一側内壁に固定される構成となつているに対し本件物件の縦長状板ばね88'の下端部は、U字状または丸状に折り曲げられ、該下部を中空脚杵の両側内壁に当接しているにすぎない点において、両者その構成を異にすること明らかである。しかして、前示本件実用新案の構成および作用効果ならびに成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案の公報)を総合すると、本件実用新案における縦長状板ばねの下端を中空脚杵の一側内壁に固定する構成は、縦長状板ばねに弾性を付与する手段であることは明らかであり、この構成は他の構成要件と相俟つて本件実用新案の必須の構成要件をなすものと認められるところ、本件物件においては、縦長状板ばねは、叙上のとおり、中空脚杵の内壁に固定する必要はなく、板ばねの下端をU字状または丸状に折り曲げられることにより二枚の板ばね(88')として構成され、これにより板ばねに弾性が付与されるものであることは、その構成に照らし明白であるから、両者この点の技術手段を異にするものというべく、本件物件は、本件実用新案の右必須の構成要件を欠くものといわざるをえない。被控訴人らは、本件物件は本件実用新案の縦長状板ばねを対称的に二個設けたものにすぎず、弾性を付与する手段として板ばねの下端を固定する代わりに、U字状または丸状に折り曲げて内装することは常套手段であり、また、下端がU字状または丸状の縦長状板ばねを中空脚杵の内壁に当接することは、本件実用新案の縦長状板ばねの下端を固定したものと同じ効果を奏し、均等の手段である旨主張する。しかしながら、前掲甲第一号証によると、本件実用新案の「登録請求の範囲」の項の記載には、明白に「固定し」との文言が用いられ、右文言が当接と異なることは明らかであるのみならず、本件実用新案において、縦長状板ばねを固定するためには、本件物件における縦長状板ばねを中空脚杵内壁に単に当接する場合に比し、製造上余分の手間を要する(本件実用新案において、その固定の手段には格別の限定がなく、熔接その他接着剤等適宜の手段が用いられるとしても、この点は同様である。)ほか、長年使用するうちには、固定部分が剥離し、板ばねとしての弾性を失い、役に立たなくなる場合のありうべきことは容易に推認しうるところであるに対し、本件物件においては、叙上のような欠点は全くない(このことは、その構成自体に照らし、明らかである。)から、作用効果において両者の板ばねが同一であるとすることは、とうていできないところといわざるをえない。また、U字状または丸状に折り曲げることにより弾性を付与することは、弾性を付与するための常套手段であるとの点も、本件物件において、U字状または丸状の縦長状板ばねがその他の構成と相俟つて奏する前認定の効果を考慮すると、単にU字状または丸状とすることが板ばねに弾性を付与するための常套手段であるとの一事をもつて、本件実用新案の板ばねと本件物件における板ばねを同一視し、または微差あるにすぎないとすることは当を得ないものというべきである。成立に争いのない甲第二号証(弁理士筒威博の鑑定書)、第三号証(弁理士服部修一の鑑定書)および原審証人永島郁二の証言中の見解は、右と異なるものであるが、叙上説示に照らし、いずれも当裁判所の賛同しえないところである。したがつて、被控訴人らの上記主張は採用しうる限りでない。

以上のとおり、本件物件は、本件実用新案の必須の構成要件を欠くから、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべきであり、したがつて、被控訴人らは、控訴人に対し本件物件の製造、販売の差止請求権を有しないものというほかない。

(損害賠償請求権の有無について)

三被控訴人に対する損害賠償請求は、本件物件が本件実用新案の技術的範囲に属することを前提とするところ、本件物件が本件実用新案の技術的範囲に属しないこと前認定のとおりである以上、その余の点を判断するまでもなく、右損害賠償請求の理由がないことは明らかである。

(むすび)

四叙上のとおりであるから、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求はすべて排斥を免れないものであり、これと趣旨を異にし、一部を認容した原判決は失当である。よつて、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴の部分を取り消し、被控訴人らの請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九三条第一項ただし書および第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例